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カメムシとヒト [読書]


 今年はカメムシが大繁殖しているとニュースで聞きましたが、困ったことです。洗濯物に付いて、その臭いに居場所を探しまわったり、踏んづけて慌てたりするのはまだいいとして、柿などの作物に被害が出るのは大問題です。



 そんなわけでもありませんが、高橋敬一『諸国カメムシ採集記』(ベレ出版)という本が出ていましたので取り寄せました。著者の高橋敬一さんにはある宴席でお目にかかったことがありました。『八重山列島昆虫記』(随想舎)、『昆虫にとってコンビニとは何か?』(朝日選書)といった多数の生物学的な面白い著書があります。その後、パラオへ行かれたという話を聞いていたのですが、どうされているのだろうと思っていたので、新刊書を見かけてすぐに注文しました。



 表紙の袖には、< わたしは40歳にして突如、カメムシ採集人になりました。頭の中はもうカメムシのことでいっぱいです。/ ついこのあいだまで、カメムシのことなんか頭の中には1ミリもなかったのに! / この本は、わたしがカメムシ採集人だったころの、さまざまな思い出話を集めてできあがった一冊です。> とありました。



 高橋敬一さんは1956年、東京生まれの農学博士です。カメムシは世界で約4万種、日本にはおよそ1500種が生息しているそうです。毎年、洗濯物に取り付いているのは、同じような顔付きで、同じ臭いなので数十種くらいかと思っっていましたが、まず、その種類の多さに驚きました。



 そもそもカメムシはストローのような口で動物の体液を吸ったり、植物の汁を吸ったりしますが、ほとんどは土の中、草のあいだ、茂みの中で、ヒトには気づかれることなく暮らしているそうです。農作物に害を及ぼすものもいますが、害虫の体液を吸う天敵として知られているものもあるそうです。テレビのニュースでは、柿農家が柿の汁を吸われてキズになり、売物にならないと嘆いていました。



 著者がカメムシ採集人となったきっかけは、もちろんそんな職業がある訳ではなく、著者が石垣島の農業試験場で害虫防除の仕事をしていた時、昆虫学者がカメムシ図鑑を作るための写真を撮りに訪れ、同室の研究者と話していたおり、< カメムシの話を、あくびをかみ殺しながら聞いていましたが、そのうちあまりな退屈さに負けて、わたしはつい言ってしまいました。/「カメムシ見つけたら送りましょうか?」>



 仕事の合間に見つけたカメムシをめんどくさいなと思いながら送っていたのですが、そのうちに、日本では記録のない種類だとか、新種かもしれないといった返事が再々来るようになり、カメムシ採集にのめり込んでいくことになります。



 その後、本書はカメムシ図鑑の話、採集方法、面白いカメムシの生態などが紹介され、後半は奥さんとともに採集で訪れたタイ、台湾、西表島や、パラオで農業局害虫防除課に勤めた時に出会った人々が印象深くスケッチ風に書かれています。著者の生物学的自由人の様相が窺われ興味深く読み進めます。この地球にはヒトだけが生きている訳ではないことが自然と感得されます。


#「バッタとイナゴ」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2020-08-18


諸国カメムシ採集記

諸国カメムシ採集記

  • 作者: 高橋 敬一
  • 出版社: ベレ出版
  • 発売日: 2023/01/23
  • : 単行本

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