師弟の機微 [読書]
去年、読んだ『不思議の国のアリス』(亜紀書房)の訳者・高山宏は『先生とわたし』(新潮社)の著者・四方田犬彦と共に由良君美の門下生だったそうです。由良君美は慶応の大学院で西脇順三郎のゼミで江藤淳の三年先輩だそうです。西脇は由良君美をかわいがり、江藤淳をひどく嫌っていたそうで、「今日は江頭君が来ているから教室に出ない」と言ったという逸話が残っているそうです。
『先生とわたし』は四方田犬彦が師・由良君美について、またその関わりについて書き、師弟関係一般についても言及した読み応えのある本でした。
「きみは最近、ぼくの悪口ばかりいい回っているそうだな」
わたしが呆気にとられて返答を躊躇っていると、彼は突然に拳骨を振
り上げ、わたしの腹を殴りつけた。
これが四方田犬彦が師・由良君美に最後に会った場面だそうです。
「わたしは自問する。はたして自分は現在に至るまで、由良君美のように真剣に弟子にむかって語りかけたことがあっただろうか。」
教え教えられる関係の始まりから、乗り越え乗り越えられる情況まで、教育の意味があらわになります。
CD を洗う [音楽]
買っておいた CD を聴いてみると、ピアノの音がくすんだような音色で楽しめません。経年変化だろうか ? 高齢になって高音難聴になってきたのだろうか ? 聴き続ける気になれず止めてしまいました。
ふと以前なにかで、CD は洗うと音が良くなるというのを読んだ記憶があって、水道水を盤面にかけて洗ってみました。なにか常軌を逸しているようで不本意でしたが、乾燥後、再生して驚きました。ピアノが透明感のある本来の音色に変わっていました。
CD の製造か流通の過程で、盤面の読み取りに関わる微妙な何かがあるのでしょう。CD はデジタルですが、製造から手元に届くまでの環境は、案外、アナログなのかも知れません。耳がわるくなったと悲観せずにすみました。
#「電源プラグの向きと音質」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2014-09-18
( CDを洗うのは禁止されているかも知れません。ご注意ください。)
野生の生活 [雑感]
アレルギー性鼻炎で鼻をかんでいると、時々、鼻出血するようになり、しばらく食後のコーヒーを止めてみました。思いがけず、中途覚醒しなくなり、朝まで目が醒めなくなりました。コーヒーは五十年来の習慣ですが、思うより睡眠に影響していたのに驚きました。今は夕食後のコーヒーを止めています。
十数年前にタバコを喫わなくなりましたが、冬に指先が冷たくならなくなりました。ただ、会話に間がもたなくなったので、ひとの集まりに出にくくなりました。もともとアルコールが飲めないので、黙って料理でも食べている他ありません。
嗜好品は人間にとって着物やアクセサリーのようなもので、他人との関係にかかわる要素ですから、生活から嗜好品が減っていくと、野生にもどっていくような感じです。人に接せず、黙々と食べ、暗くなれば眠る・・・果たしてこんな生活をめざしていたのだったか ?
たなざらしの本 [読書]
梅雨になって空気中の水分が増えたようです。買ったまま読んでいない本がたくさんあります。次にどれを読もうかと、しっけた本箱から取り出してみたのは、四方田犬彦『先生とわたし』(新潮社)です。奥付をみるともう九年も前の本です。当時、なにか書評でも読んで買う気になったのでしょう。
本にも鮮度とか、読み頃がありますが、時間にさらして、忘れたころに、ふと読んでおもしろかったということもあります。音楽も同様でCD を買ってきて、一度聴いて、そのままになっていたのを、何年もして聴きなおしてびっくりすることがあります。なにか波長のあう時機というのがあるのでしょう。
さっきまで読んでいたのは、丸谷才一『綾とりで天の川』(文藝春秋)です。これは十一年も前の本です。しかし、これは最近 Amazon で取り寄せました。「オール讀物」に連載したシリーズを遡って読んでいます。寝る前の読書にちょうどいい読物です。梅雨どきの寝苦しい夜の安眠を助けてくれます。