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ふと 聴きいる [音楽]


 音楽のなかで弦楽四重奏曲は地味な曲が多いので、BGMにいいと思って、ベートーヴェンの 全16曲を順番にかけていたのですが、ある日、第14番作品131を聴き始めて驚きました。深々とした静謐な音をヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが絡みながら連綿と紡いでゆきます。エッ、ベートーヴェンにこんな静かで豊かな曲想の音楽があったのかと不思議な気がしました。



 この曲は今までにも何回かは聴いているはずです。CD棚には演奏団体の異なる4種類のCDがありました。だのに、初めて聴いた印象なのです。40分たらずの曲ですが、7楽章もあり、しかも休みなく続けて演奏されるという変わった構成になっています。これまで、よほど興味が湧かなかったのか初めて知りました。ベートーヴェン最晩年の作曲です。



 この曲は一般にどんなふうに理解されているのだろうと、手持ちの本を繰ってみました。宇野功芳・中野雄・福島章恭『クラシックCDの名盤 大作曲家篇』(文春新書)では中野雄はこの曲について、<・・・「ベートーヴェンの全作品から一曲」と言われたら、私はこの音楽を選ぶ。> と書いていてビックリしました。この本は隅々まで読んでいるはずなのに・・・この文章は記憶に残っていません。



 次に、吉田秀和『私の好きな曲』(ちくま文庫)を見ると、なんと! 巻頭が「ベートーヴェン『弦楽四重奏曲嬰ハ短調』作品一三一」についてなのでした。著者は <・・・一曲だけを選び出すのは極度にむずかしい。しかし、やっぱり(中略)嬰ハ短調の四重奏曲・・・> と記していました。この本も多分読んだはずですが、憶えていません。かって何回か聴いても、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲のどこがいいのか? という記憶だったので、何とも思わず素通りしたのかもしれません。



 CDを買った時に何回か期待して聴いたおりには、何とも思わず、何十年も経って、昼寝のBGMとして耳に入った時に、いい曲だなと目が醒めるとは、音楽との出会いも不思議なものです。



#「音楽と出会うとき」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2023-12-19




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食事と雑談の楽しみ [雑感]


 3年半ぶりに、かって一緒に働いた人たちとの食事会に、南紀へ出かけてきました。天気も絶好のドライブ日和で、道も良くなり、かけていたCDが終わらないうちに宿泊所に着きました。16年住んだ土地なので、なにか帰って来たような気がしました。



 家内は、この町は、買い物も郵便局も銀行も食べ物屋も駅も歩いて行ける範囲にあり、魚が美味しく、海も山も近く、住みやすい町だったといつも懐かしがっています。


IMG_3017.jpeg


 食事会はわたしたち夫婦を含めて8人というこじんまりした集まりですが、互いの近況を話したり、職場の最近のようすが話題になったり、高齢者は持病や睡眠具合を持論を交えて語ったり、魚料理を食べながらの和やかな時間となりました。高齢者にとっては一期一会という言葉が想い出されます。



 その夜は、同い年の元同僚ご夫妻と同じ宿に泊まり、翌日は熊野古道沿いの村に行き、小麦が食べられないわたしに付き合ってもらい、予約しておいたグルテン・フリーの店でハンバーグを昼食にしました。小さな村ですが、次々に客が来るのには驚きました。



 元同僚ご夫妻はともに話題が豊富で、道の駅のオープン・カフェのテーブルで、ウグイスの鳴き声を聴きながら、泉のように溢れてくる話しを楽しませてもらいました。最近読んだ高橋敬一さんの本のこと、映画「ゴジラ」のこと、ドングリで森を再生する活動、リビング・ウイルの手続き、ジェフ・ベックのギター、都はるみがアカペラで唄った、カレーの作り方・・・何事も成り行き任せのわたしたち夫婦とはまた違った生き方だと刺激を受けました。



 ここ数年、コロナ禍と持病のために、ほとんど人ごみに出ず、家内以外と話す機会の無かったわたしには、なんとも楽しい2日間でした。社会へ戻るリハビリとなったようです。そろそろ外食や旅行にも出かけてみようかとこころが弾んできました。




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桜の句歌など [雑感]


 今年は桜のもとでの入学式になったようです。近年、桜の開花が早くなって、人々は季節感のずれにとまどっていたようですが、今年はなんとなく安心したような雰囲気が感じられます。



   離れては見るべき物と見つつおもふ

      桜の花よ雲のごとく咲け (窪田空穂)



   咲きいづるや桜さくらと咲きつらなり (荻原井泉水)


 桜の花に対する、特別な感情が滲み出ています。季節が過ぎれば目立たない木に戻るのに、雲が湧くように一斉に開花する力に感歎しているようです。



   清水(きよみづ)へ祇園(ぎをん)をよぎる桜月夜(さくらづきよ)

      こよひ逢ふ人みなうつくしき (与謝野晶子)



 桜には「みなうつくしき」と思わせる霊力があるようです。梶井基次郎は、< ・・・桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この一、二日不安だった。しかしいまやっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。> と桜の美しさの秘密を開示しています。




   春風の花を散らすと見る夢は

      覚めても胸のさわぐなりけり (西行)



 西行は「吉野山梢の花を見し日より 心は身にもそはずなりにき」とも詠んでいます。桜に取り憑かれた思いを、ストレートに歌にしてしまうのは、天性の資質なのでしょう。そして「花の下にて春死なん」と願い、その通りになったのには驚かされます。 



   四方(しはう)より花吹入れて鳰(にほ)の海 (松尾芭蕉)





 近江の膳所にての詠。「鳰の海」は琵琶湖の古称で鳰はカイツブリ。琵琶湖の春の風景を大きく詠って愛でています。芭蕉には「行春(ゆくはる)を近江の人とおしみける」という句もあり、近江は愛着のある土地だったのでしょう。


   さまざまの事思ひ出す桜かな (芭蕉)




   

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