桜の句歌など [雑感]
今年は桜のもとでの入学式になったようです。近年、桜の開花が早くなって、人々は季節感のずれにとまどっていたようですが、今年はなんとなく安心したような雰囲気が感じられます。
離れては見るべき物と見つつおもふ
桜の花よ雲のごとく咲け (窪田空穂)
咲きいづるや桜さくらと咲きつらなり (荻原井泉水)
桜の花に対する、特別な感情が滲み出ています。季節が過ぎれば目立たない木に戻るのに、雲が湧くように一斉に開花する力に感歎しているようです。
清水(きよみづ)へ祇園(ぎをん)をよぎる桜月夜(さくらづきよ)
こよひ逢ふ人みなうつくしき (与謝野晶子)
桜には「みなうつくしき」と思わせる霊力があるようです。梶井基次郎は、< ・・・桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この一、二日不安だった。しかしいまやっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。> と桜の美しさの秘密を開示しています。
春風の花を散らすと見る夢は
覚めても胸のさわぐなりけり (西行)
西行は「吉野山梢の花を見し日より 心は身にもそはずなりにき」とも詠んでいます。桜に取り憑かれた思いを、ストレートに歌にしてしまうのは、天性の資質なのでしょう。そして「花の下にて春死なん」と願い、その通りになったのには驚かされます。
四方(しはう)より花吹入れて鳰(にほ)の海 (松尾芭蕉)
近江の膳所にての詠。「鳰の海」は琵琶湖の古称で鳰はカイツブリ。琵琶湖の春の風景を大きく詠って愛でています。芭蕉には「行春(ゆくはる)を近江の人とおしみける」という句もあり、近江は愛着のある土地だったのでしょう。
さまざまの事思ひ出す桜かな (芭蕉)