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ハーディの小説 [読書]

  高校生の時、英語の授業で T.ハーディの短篇小説「羊飼の見た事件 What the Shepherd Saw」を読んだ記憶があるのですが、巨石遺跡が舞台だったというくらいで、話の筋はよく覚えていません。


 大学生の時、同作者の『ダーバァヴィル家のテス』を読んだのですが、ロマン・ポランスキー監督の映画『テス』を観て原作を読む気になったのだと思っていましたが、調べてみると映画は 1980年公開なので、順序は逆で、小説を読んでいたので、映画を観に行ったようです。


 1985年に買った『ハーディ短編集』(河野一郎訳 新潮文庫)が本箱にあったので、思いついて「羊飼の見た事件」を再読してみました。何ということもない 19世紀的なお話しでした。羊飼の少年が夜中、寝ぼけまなこで小屋の窓から外を覗いていると、月光に霜の結晶がきらめく草原のなか、巨石遺跡のそばで、殺人事件が起る。


 10代だったわたしにとって、そのオドロオドロしい情況が強く印象に残ったのかもしれません。教科書に載っていた小説や副読本で読んだ本は、なんとなく記憶に残っているものです。


 そういえば高校生の時に英語の授業で、J.B.プリーストリーの『Delight』というエッセイ集を読んだのですが、その中に、トルコ産の海泡石のパイプというのが出てきた記憶があって、40代のころ、同僚がトルコへ出張するというので、買ってきてもらいました。ただ、一回も使わないまま置いているうちに、禁煙してしまい、棚の隅で黴びたようになっています。


 人間は案外、若い頃に読んだ本とか映画とかに、内容は忘れ、記憶は混乱していても、影響されて、暮らしているのかもしれません。


 思いかえしているうちに「羊飼の見た事件」を読んだのが、本当に高校生の時だったのかどうかすら怪しくなってきました。



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上京者の秘密 [読書]

  大学受験のとき、あまり遠くの学校は受ける気にはなりませんでした。せっかく遠方へ受験に行っても、受からなかったら、しんどいと思っていました。結果として関西の近くで済ませました。


 大学を卒業して、仕事に就くときも、手近な職場を選びました。以来 46年、同一県内で働いています。働き始めた頃、東京へ行った友人が電話で、東京へ出てこいと誘ってくれましたが、そんな気にはなりませんでした。


 岡崎武志『上京する文學』(ちくま文庫)は <故郷をあとにした作家たち、もしくは上京する若者を描いた作品たちを、「上京者」という視点から読んでみた> という本です。寺山修司、井上ひさし、宮沢賢治、松本清張、村上春樹、野呂邦暢、川端康成など 19人が取り上げられています。以前に読んだ著者の『ここが私の東京』(扶桑社)の前に書かれたもののようです。


 <上京者の清張は、作品の舞台として東京を多く描きながら、同時に東京を起点に地方へと目を向けた。(中略)清張の作品群は、地方をよく知る者の目が、東京という巨大な都市を見た時にどう映るかという実験でもあった。> と書いています。


 わたしは松本清張をほとんど読んでいないのですが、彼が地方と東京との関係に関心があったというのは分かるような気がします。「上京者」各人をそれぞれに、おもしろく語っています。


 #「はるばる函館」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2016-04-23


上京する文學 (ちくま文庫)

上京する文學 (ちくま文庫)

  • 作者: 岡崎 武志
  • 出版社: 筑摩書房
  • 発売日: 2019/09/10
  • メディア: 文庫

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こどもの歌あそび [音楽]

 童謡「十五夜お月さん」、「七つの子」、「赤い靴」などの作曲(作詞 野口雨情)で知られる本居長世は、本居宣長を祖とする国語・国文学の家の六代目に生まれ、家学を継ごうか、好きな音楽の道に進もうかと迷った末、東京音楽学校にはいった人で、同級生 山田耕筰氏をさしおいて首席で卒業したそうです(金田一春彦『ことばの歳時記』新潮文庫)。


 童謡にはおもしろい話がいろいろあります。「七つの子」の七つとは、七羽のことなのか、七歳のことか、曖昧です。カラスは七羽も一度に子育てしないし、七歳ではかわいい子とはいえないだろうし・・・。


 誰だったか、こどものころ、「赤い靴」の女の子は「いい爺さん」に連れられて行ったので良かったと思っていたと書いていました。また「女の子」には実在のモデルがあったとか。


 歌詞のことばのアクセントに合わせて作曲したといっても、関西人は「夕焼、小焼の、あかとんぼ」には違和感があります。「アカ」のアクセントは作詞の三木露風(兵庫県生)と作曲の山田耕筰(東京生)とでは違っていたのではないでしょうか。


 「夕焼」はいいとして、「小焼」とはどういう意味か?  小規模な不完全な夕焼のことだろうか。金田一先生は「お寒小寒」と同じように、「小」は同じ形の語句を重ねて調子のいいのを楽しむ時にはさんで使う接頭語で、特に意味はなさそうだと記しています。


 そういえば「うさぎ 美味し かの山・・・」という唱歌もありました。



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映画の中の風景 [読書]

  今日は青空が見えて、羊雲が浮かんでいます。風が乾いていて、秋の気配を感じます。夏休みが終わったと思ったら、近隣の小学校ではもうインフルエンザが流行っているそうです。


  小狐の何にむせけむ小萩はら (与謝蕪村)


 このあいだ買ってきた、川本三郎『銀幕の東京』(中公新書)を読んでいると、小津安二郎の映画『東京物語』で娘・杉村春子が営む美容院は、浅草の吾妻橋のあたりの路地裏を模したセットだそうです。また、息子・山村聡の「平山医院」の場所は足立区千住で、東武伊勢崎線堀切駅の近く、荒川土手の下とのことです。



 このあたりは昭和6-7年ごろ永井荷風がよく散策した場所だそうで、小津の日記では昭和28年4月、彼は「荷風全集」を買って読み、その後、荷風が好んで歩いたところへ、ロケハンに出かけているそうです。


 かって、わたしの息子も千住に住んでいたことがあり、あの辺りは何度か歩きましたが、いま思えば『東京物語』の中を彷徨いていたのかと、過ぎにしかたがよみがえります。


 川本三郎は「あとがき」に「個人的な思い出になるが、昭和二十九年の冬休み、小学校四年生の私は、兄たちと一緒に築地の東劇にアメリカ映画「ホワイト・クリスマス」を見に行った。映画そのもののきらびやかさもさることながら、映画の帰りに見た築地川に映るネオンの美しさと銀座のにぎわいが忘れられない。はじめてのロードショー体験であり、はじめての銀座体験だった。」と書いています。


  ひぐらしはさびしきものか淡々(あはあは)と

     過ぎにしかたのよみがへりくる (北 杜夫)


 #「「東京物語」のたくらみ」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2015-04-13

#「小説を読み解く」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2021-07-12

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