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鱒鮨のこと [食物]

   わたしの父親は薬関係の仕事をしていたので、時に富山の薬屋さんへ出張していました。帰りに鱒鮨を買ってくることがありました。土産という楽しさもあり、淡い紅色の鱒という魚も珍しく、子供心に美味しかった記憶として残っています。当時、川魚など食べたこともなく、サーモンなど無かった時代です。


 大人になって家内が百貨店の催しに出ていた駅弁の鱒鮨を買ってくることがありました。子供の頃を思い出し、懐かしく食べました。30年程前、子供達を連れ立山に出かけたおり、室堂で昼食に食べた時には夏だったせいか酢がきつく、少しガッカリしました。


 15年程前、黒部峡谷に旅行したおり、JR富山駅の食堂に入ると、品書きに鱒鮨が2種類ありました。どう違うのか訊いてみると、普通のと腹身のとがあるとのことでした。腹身の鱒鮨はねっとりと脂分が舌に感じられ、今まで食べた駅弁の鱒鮨とは別物でした。店の人によると富山では何軒か鱒鮨屋があり、各人好みの店のを買うとのことでした。考えてみれば地元の人は駅弁は食べないのでしょう。わたしも最寄り駅の駅弁は食べたことがありません。


 4年前、富山の八尾へ盆踊りを見に行ったおり、思い出して富山駅へ行ったのですが、駅が建て替わっていて、先の店も分からず、結局満足に食べられませんでした。


 先日、吉田健一『私の食物誌』(中央公論社)を読んでいると「富山の鱒鮨」という文があり、<・・・富山の信用出来る店で作っているのは桶が小包で着くと嬉しくなる。それも六月頃に作るのがよくて、どういう関係かその頃の鱒が一番脂が乗り、飯にもその脂が染み込んで旨くなっている感じである。>というようなことが書いてありました。


 読んでいるとあの腹身の鱒鮨のことが思い出され、つい鱒鮨屋さんに電話して送ってもらう羽目になりました。


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 しっとりと鱒の身が舌にからみ、酢も柔らかく、鱒の香りがひろがります。それにしても、また自由に旅行に出かけられる時が待ち遠しくなります。食べ物もそれぞれに土地の記憶と繋がっています。


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