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松山のメバル [食物]

  食べ物の話というのは、蘊蓄を聞かされても鬱陶しいし、どこの名店の何がうまいと言われても鼻白むところがあり、読んで気持ちのいい読み物になるには、著者の人品によるところが大きいようです。


 吉田健一『私の食物誌』(中央公論社)は各地の食べ物について読売新聞に連載した短文を主にまとめた本で、快く楽しめます。もっとも昭和47年の出版なので幾分時代を感じるところもありますが、さしたる差し支えはありません。


 < 大体旨いものだから皆で食べなければならないという法はないのである。それと栄養の問題は別でその上に各自の好みがあり、旨いからと言って早速それを全国の名店街で売り出す必要は少しもないということがこの頃は忘れられ掛けている。序でながら、この蠑螺の塩辛も別に高いものでも何でもない。 >


 これは「飛島の貝」という章の文末です。こんな文章を読むとつい微笑が浮かびます。書き出しは・・・「日本海の山形県沿いに飛島という小さな島があってここの貝は旨い。どういう貝だろうとここで取れる貝は何でも皆いいようであるが、その中でも挙げたいものに鮑(あわび)と蠑螺(さざえ)がある。」と語り出します。


 「長浜の鴨」とか「長崎の豚の角煮」、「金沢の蕪鮨」、「瀬戸内海のめばる」といった話題が次々と続きます。巣ごもり状態のなか、本を読んでいつか行けるかもしれない旅を想像します。


 この本は 1991年5月に集会があって松山にでかけ、城山の麓にあった古書店で手に入れたものです。そういえばその折、同僚と食堂に入り、品書きに「めばる煮付け」とあって懐かしくなり注文したのですが、女将さんから「時価なんですけど・・・」と顔を覗かれた記憶があります。そんなものを食べる客には見えなかったのでしょう。


 吉田健一は岩国で家庭料理として御馳走になった「めばる」について <・・・少くとも十何匹かのめばるが大きな皿に盛って出された。ただ普通に煮ただけのもの、或いはそうとしか思えない淡泊な味付けの煮方をしたのを銘々が勝手に自分の皿に取って食べるので四、五人で御馳走になったのに魚は残らなかった。ただめばるという魚は旨いものだということが記憶にあるだけで他には生姜(しょうが)が使ってあったこと位しか覚えていない。併しそのめばるを煮たのは旨かったともう一度繰り返して言いたい。 > と舌舐めずりするように回想しています。


 さて、わたしは時価と言われてめばるを食べたのか、食べなかったのか・・・思い出せません。




私の食物誌 (中公文庫)

私の食物誌 (中公文庫)

  • 作者: 吉田 健一

 

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コメント 3

よしころん

>石とか砂とか膵・胆道系は大丈夫ですか?
ご心配をいただきありがとうございます m(_ _)m
追記させていただきましたが、「機能性ディスペプシア」キツイ症状はあるにもかかわらず、他の臓器や血液検査等も全て異常なしが特徴でもあるのです。
そういったこともあり長く病名を特定できずにいたのですが、少しスッキリした気持ちでもあります。

前記事の「首上」へぇ~と思い検索をかけてみたりしました^^;
by よしころん (2021-02-12 09:55) 

よしころん

あ、瀬戸内の出身にて「めばる」大好きです♪
時価がいかほどだったのかも気になりました^^;
by よしころん (2021-02-12 09:56) 

爛漫亭

 よしころんさん、松山でメバルを食べたのか
どうか思い出せません。一緒に行った同僚は
食堂に入ったことも記憶にないようです。

by 爛漫亭 (2021-02-12 11:31) 

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