セミの文学誌 [読書]
久しぶりに本屋さんに行きたくなり、どこがいいか、あるていど本が有って人の少ないところと考え、お城の前の書店へ出かけました。あちこちの棚を眺めながら、物色していましたが、これと思うものがなく、まあいいかと諦めかけた時、ふと奥本大三郎『虫の文学誌』(小学館)という本が目にとまりました。
奥本大三郎は虫好きなフランス文学者で、今まで何冊か読んで楽しめたので買ってみました。近年は『ファーブル昆虫記』の翻訳という大業に取り組んでいたためか、しばらく彼の新著は見かけませんでした。帰って早速、ペラペラとページを繰ってみると、たとえばセミについて、こんなことが書いてありました。
<セミを捕まえようとすると、「ちっ」と鳴いて、小便を引っ掛けて飛び立つ。そのため、南仏などでは、利尿剤として処方されてきたという。セミを干しておき、尿の出にくくなった人に煎じて飲ませたのだそうである。「知らない間に私も飲まされたかもしれない」と晩年、尿毒症に苦しんだファーブルが書いている。>
そして俳句や川柳を挙げ・・・
蟬に出て蛍に戻る納涼(すずみ)かな (横井也有)
とかまると地声になつて蟬はなき (川傍柳四)
セミの生態を・・・<フランスでは、ロワール川から南の、リヨンあたりからセミが鳴き始める。それより北では、冬の地中温度が低過ぎて、幼虫が生きていけないようである。/そのためセミは、南フランスの象徴となっている。>・・・と書き
また、<セミの詩の本場というべきは中国である。彼の地では、セミは羽化登仙(うかとうせん)する高貴な虫として、古代から貴ばれてきたようである。> として・・・
蟬 虞世南
緌(ずい)を垂れて清露を飲み
響を流して疎桐(そとう)より出(い)づ
高きに居れば声自(おの)ずから遠し
是(こ)れ秋風を藉(か)るに非(あら)ず
などの詩を例示しています。 俳句、川柳、漢詩、ギリシャの詩、ラフカディオ・ハーン、ラ・フォンテーヌなど話題が豊富に詰まっています。これはしばらく楽しめそうです。
やがて死ぬけしきは見えず蟬の声 (芭蕉)