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歴史の謎を地理で解く [読書]

  自分の頭でアレコレと考えるのは楽しいものです。詰将棋とか、クロスワード・パズル、幾何の問題とか、頭をひねっていろんな角度から検討しても筋道がつかめないのが、ある時、ふと考えがひらめいて光明が見える。正解が得られた時には快感に浸れます。これらには正解がありますが、日頃の生活のなかでは「なぜだろう?」と思っても、答えがあるのか無いのかすら分からないことがほとんどです。


 人間には過去からの膨大な引き継ぎがあります。常識、定説、妥当とされる先人の解釈や意味づけ、通念、俗説、時代の流行などが身の回りを厚く強固に取り囲んでいます。そんな中で日々、「疑問」を持てるというのは一種、特殊な能力なのかもしれません。


 足利健亮『景観から歴史を読む 地図を解く楽しみ』(NHKライブラリー)を読んでそんなことを思いました。あるブログ*の記事にこの本の紹介があり、興味をひかれアマゾンで古書を取り寄せました。


 「百済」はなぜ「くだら」と読むのだろう? <漢字として読むなら「ひゃくさい」か「ひゃくせい」だし、朝鮮半島の言葉としてなら「ペクチェ」でなければなりません。> 著者は百済の人が日本へ仏教を伝え、百済から渡来の仏教者が、口々に観音を語り、観音の住む「ふだらく・補陀落」を語り、日本人はそれらの人々が「ふだらく」から来たと思っただろうと考えます。日本書紀の古訓には百済を「クダラク」とするものもあるそうです。「ふだら」から「くだら」に変化したと著者は推測しています。


 「日下」はなぜ「くさか」と読むのか? 東大阪市の生駒山西麓に今も「日下」という集落があるそうです。日本書紀では「草香邑(くさかむら)」と書かれているのですが、古事記ではなぜか「日下」という字を当てているそうです。著者はある日突然疑問が氷解したといいます。 <答えは簡単、日は草の簡体字、草冠(くさかんむり)と十の部分を省略した簡体字と見れば説明できる>、 「香」も同じ音の簡単な字の「下」に置き換えてあるというのです。何故か? 「古事記」は稗田阿礼の口述を速記したので、簡単な略字を使ったのだろうと著者は解釈しています。


 こんな話は本書の本論ではありません。「聖武天皇の都作り」とか「古代の大道は直線であった」、「織田信長の城地選定構想を読む」などといった章に著者の地図や地名を読む本領が発揮され、次々と疑問が解かれていきます。本書は『NHK人間講座』のテキストを増補したものです。こんな授業を聴けたら楽しいだろうなと想像します。疑問も上手に温めていれば、ある日、突然孵化するのかも知れません。


#「大国主神の国譲り」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2017-05-13


 *「けふもよむべし あすもよむべし」middrinn様に感謝します。


景観から歴史を読む―地図を解く楽しみ (NHKライブラリー (91))

景観から歴史を読む―地図を解く楽しみ (NHKライブラリー (91))

  • 作者: 足利 健亮
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2020/07/05
  • メディア: 新書



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