消しえないもの [音楽]
ここしばらく、H.ブロムシュテットという指揮者のCDを聴いています。清新で、かつ活力があります。1927年、アメリカ生まれのスウェーデン人だそうです。30年ほど前、サンフランシスコ交響楽団とシベリウスの交響曲集を出していて、その時、北欧の人だけに冷んやりした空気感だ・・・と、時折に聴いていました。
次に感銘を受けたのは数年前で、ドレスデン・シュターツカペレを指揮したブルックナー交響曲第4番、7番でした。明瞭で清々しく、しかも迫力もある演奏です。ドイツ・オーストリア系の指揮者の音より少し透明感があるような感じです。
昨年だったか CD屋さんで、彼がニールセンの交響曲第4番、5番を指揮した盤が目についたので買ってみました。第4番は「不滅」という名称が付いているのですが、以前から何が不滅なのかさっぱり分かりませんでした。ところが、ブロムシュテットの指揮で聴くと、生気に溢れ、生命力に満ちた音楽として聞こえてきました。
「不滅」は英語表記では「The inextinguishable」でした。あちこちで見かける消火器には fire extinguisherと書かれているので、「不滅」はさしずめ「消しえないもの」というくらいの意味なのかも知れません。ニールセンは生命力・アニマを消しえないものとして音楽にしているのではないかと思いました。「不滅」の作曲はちょうど第一次世界大戦の最中です。
そういえばフィンランドのシベリウス(1865-1957)とデンマークのニールセン(1865-1931)は同い年です。同世代としてはマーラー(1860-1911)、リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)、ドビュッシー(1862-1918)などがいます。20世紀音楽を切り拓いた人たちです。リヒャルト・シュトラウスなどは第二次世界大戦の後まで生きて、祖国の崩壊を目にすることになります。そう考えれば「inextinguishable」という題は意味深長に思えます。蟄居を余儀なくされている節に、活力に溢れた音楽は滋養になります。