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本を書くひと作るひと [読書]


 新聞の書評欄で川本三郎が山田稔『メリナの国で 新編 旅のなかの旅』(編集工房ノア)という本を紹介していました。フランス文学者の山田稔が若い頃に書いた旅行記をまとめたものです。彼の本は以前に『コーマルタン界隈』(河出書房新社)というパリの話を読んでいて、面白かった記憶があったので、Amazonで取り寄せました。



 山田稔は 1930年、門司に生まれ、長年、京都大学でフランス語を教え、フランス文学の翻訳も多数あるようで、現在も 92歳で健在です。若い頃から「VIKING」という関西に拠点を置く同人雑誌に関わってきたそうです。「VIKING」といえば同人に富士正晴、島尾敏雄、庄野潤三、山崎豊子、高橋和巳などがいたので知られています。



 また「編集工房ノア」という出版社の本を買ったのは初めてのような気がします。本にはさまれていた出版案内などを見ると、鶴見俊輔、天野忠、杉本秀太郎、足立巻一といった名前が並んでいて、ちょっと手に取ってみようかと思う本もあります。



 調べてみると「編集工房ノア」というのは大阪・中津にある大阪では珍しい文芸書専門の出版社です。1975年、涸沢純平という人が創業し、奥さんと二人で営んでいるそうです。自分の気に入った人の本を出版して暮らすというのは、書物好きの人間には楽しい仕事のように思えますが、この出版不況の中、そんなに多くは売れそうもない本を出し続けて、よくやっていけるものだと感心します。



 「メリナの国で」は 1980-81年に京都新聞夕刊に連載されたギリシャへの旅行の話です。安ホテルでの停電や水騒動などよくある話題をはさみながら、現地で出会った人たちが小説風に描かれ、ツアーの同行者やホテルの主人などが陰影をもって記憶に残ります。"メリナ"というのは『日曜はだめよ』という映画で知られる著者好みのギリシャの女優、メリナ・メルクーリのことで、またアテネで出会うことになった女性の名前でもあります。



  次に「太陽の門をくぐって」はスペイン・アンダルシアの旅、そして「ローマ日記」と続きます。旅行で出会った人たちが物語の中の人物のようにスケッチされているので、ロード・ムーヴィーのような感じです。やはり旅行記の面白さは、景色ではなく、人間が紙面の中で生きていることだと思われます。


#「都市に紛れこむ」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2015-11-19


メリナの国で 新編旅のなかの旅

メリナの国で 新編旅のなかの旅

  • 作者: 山田稔
  • 出版社: 編集工房ノア
  • 発売日: 2023/05/01
  • メディア: 単行本

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middrinn

最後の一文が秀逸です(^^) もしかして御夫婦が読みたい本を
出版されているのなら、読者冥利に尽きるとも言えそう(^^)
by middrinn (2023-07-12 19:50) 

そらへい

「VIKING」は若い頃聞いた名前です。
編集工房ノアも名前だけは聞いたことがあります。
大阪でご夫婦がやっておられる出版社とは知りませんでした。
私はこのところ衝動買いで失敗続けています。
やはり書評とか何かガイドが必要ですね。
時間とお金が勿体ないです。
by そらへい (2023-07-12 20:08) 

爛漫亭

 middrinnさん、本を一冊作るのも大変な作業でしょうね。
内容は勿論として、校正、装丁、部数など採算も考えたら
キリがありません。御夫婦二人でやりくりするのは、余程
好きと根気がなければ出来ないでしょうね。
by 爛漫亭 (2023-07-12 21:12) 

爛漫亭

 そらへいさん、本を選ぶのは難しいですね。
わたしは川本三郎などの趣味のあう書評家の
選んでいるのをチェックしています。どうしても
偏ってしまう欠点がありますが・・・。
by 爛漫亭 (2023-07-12 21:25) 

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