トリは鳴き ヒトはウタう [読書]
30年ほど前に読んだ『ゾウの時間 ネズミの時間』(中公新書)が大変面白かったので、著者・本川達雄の新刊『ウマは走る ヒトはコケる』(中公新書)が出ていたので読んでみました。著者はわたしと同い年の生物学者で、「歌う生物学者」としても知られています。
前著と同じような調子の本だろうと、気軽に読み始めたのですが、これはまるで運動解剖・生理学の教科書のようで、動物の歩く、走る、泳ぐ、飛ぶという行動のメカニズムを詳述しており、読み進みながら段々と講義を受けている気分になり、時々、眠気に襲われました。
とは言っても、興味深い話が色々ありました。たとえば、インドからツルがヒマラヤを越えてモンゴルへ繁殖にいくことは知っていましたが、人間が酸素ボンベを付けて登っている遥か上空(酸素濃度が1/3で、気温-60度)を、なぜツルは飛べるのか? そういえばツルは高山病にもならず、凍傷にもなりません。
トリの呼吸器は哺乳動物のに比べ格段に性能が良いそうです。ヒトでは4.5 ℓ の肺容量に対し、1回の呼吸で1/10しか換気できない.。それはヒトでは袋状の肺胞へ空気を出し入れしてガス交換しているからで、トリではガス交換器が管状になっており、気嚢という装置によって空気は吸った時も吐いた時も常に一定方向に流れる効率の良い仕組みになっているそうです。
トリは体温が40°Cもあり、全身がダウンで覆われています。また露出している脚には対交流熱交換装置があるそうです(暖かい動脈に接して静脈が取り囲み熱をもらう)。
身近なところでは、魚は普段は血合筋で背骨をくねらせながら泳いでいるそうです。血合筋には毛細血管、ミオグロビン、ミトコンドリアが多く、有酸素運動用で、クルージングに適しています。一方、白身は瞬発運動向きで、ヒラメやタイなどは一定の場所に留まっているのだそうです。普段気にしない事柄の生理学的な理由に気づかせてくれます。解剖学・生理学は退屈ですが、生き物が生きていく基本条件のようです。