師走の句歌 [雑感]
時雨とともに冬の気配が訪れます。今年も残り少なくなったと、何か焦るような気持ちが湧いてきます。そして初時雨には軽い驚きが伴います。
ででむしのえりうつくしき初時雨 (三好達治)
ででむしはカタツムリのことです。えりとは頭を出す殻の出口でしょうか? 小動物たちにも冬が待っています。カタツムリの寿命は1年程ですが、種によっては 15年も生きるのがあるそうです。
いにしへを思へば夢かうつつかも
夜はしぐれの雨を聴きつつ (良寛)
遠い昔のことを振り返れば、記憶は曖昧になります。実際にあったことなのか、夢で見たことだったのか、はっきりとは区別できません。夢だったのかもしれない・・・ふと、冷気に気がつけば夜のしぐれが降っています。
葱(ねぎ)買て枯木の中を帰りけり (与謝蕪村)
枯木林のくすんだ色の中、ネギの緑色が鮮やかです。帰って鍋でもするのでしょうか。万象が冬枯れるとき、ネギは生気をもたらします。
寂しさに堪へたる人のまたもあれな
いほりならべん冬の山里 (西行)
世俗を離れた庵住まいでも、冬の寂しい暮らしの中で、ときに談笑できる隣人を求める気持ちも湧いてきます。そんな隣人はいないものか。
塩鯛の歯ぐきも寒し魚の店(たな) (松尾芭蕉)
正月用の焼き鯛なのか、白い歯を寒々しく見せて並んでいます。歳末の人間たちの慌ただしさをにらんでいます。
年暮れて我が齢(よ)更(ふ)けゆく風の音に
心のうちの冷(すさま)じきかな (紫式部)
12月29日の夜、紫式部は内裏の局で女房たちと雑談しながらおきている。男たちが女房を訪ねる履の音が風に乗って聞こえてくる。紫式部は独り言のように、年を重ねる寒々とした心を詠んでみる。
師走になると毎年のことながら、それなりの感慨がうかびます。何とか今年もやり過ごせそうと肩の荷を降ろす気分です。季節の句歌集をひもときながら、目に止まったものを並べてみました。多分に自分勝手な思いを重ねます。