今年は早い梅雨入りで、うっとうしい日が多いようです。巣ごもり状態だったうえ、たまの散歩もままなりません。気晴らしに『句歌歳時記 夏』(山本健吉編著 新潮社)を眺めています。


   五月雨(さみだれ)を集めて早し最上川 (松尾芭蕉)


      五月雨や大河(たいが)を前に家二軒 (与謝蕪村)

 

 芭蕉は川の力強さを主に詠っていますが、蕪村は水を恐れる人間に目が向いています。二人の資質の違いが際だっています。それでも芭蕉あっての蕪村という気がします。





  水の上五月のわかきいなびかり (大野林火)
 

 

      泰山木天にひらきて雨を受く (山口青邨)

 

 

  泰山木の句には「落ちざまに水こぼしけり花椿(芭蕉)」、「椿落ちてきのふの雨をこぼしけり(蕪村)」が意識されている気配があります。

 

         昼ながら幽(かす)かに光る蛍一つ

       孟宗の藪(やぶ)を出でて消えたり (北原白秋)

 

 

     なめくぢも夕映えてをり葱(ねぎ)の先 (飴山実)

 

 

     みじか夜や毛虫の上に露の玉 (与謝蕪村)

 

 

   小動物に視点を定めている人間の存在が浮かび上がります。虫を詠んでいるようで、それを観ている人のことが気になります。


 

         口をもて霧吹くよりもこまかなる

        雨に薊(あざみ)の花はぬれけり (長塚節)  

 

 

     青梅の臀(しり)うつくしくそろひけり (室生犀星)

 

 

   植物を眺める人は、虫を観る人に比べ、少し自足した雰囲気が感じられます。虫は作者の身代わりとなりやすいのかも知れません。

 

 『句歌歳時記』は山本健吉が「週刊新潮」に昭和 31年から連載した囲み欄「句歌歳時記」の 30年分を四季別に四巻に編集したものです。季節に因んだ俳句と和歌・短歌のアンソロジーとなっており、季節のものを机上に置いておけば三ヶ月楽しめます。いつのまにか三十年来の愛読書となっています。




 







句歌歳時記 全4冊揃い(春/夏/秋/冬・新年) 



  • 作者: 山本健吉

  • 出版社: 新潮社

  • メディア: 文庫