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大阪人の『高慢と偏見』 [読書]

  関西には「いけず」という言葉があります。ちょっと意地悪とでもいったニュアンスです。逆には「いける」という言葉があり「イケメン」は日常語です。かっては「イカス」という言葉もありました。関西の「いけず」という微妙な雰囲気の言葉はどこから生まれたのでしょう。


 ふと、そんなことを思ったのは、『細雪』という小説の朗読を聴いていて、「いけず」な目線が感じられたからです。東京人の谷崎潤一郎が関西人の「いけず」の世界を書いてみたという風に。


 昭和十年代、大阪船場の、今は没落した大店の四人姉妹、長女と次女は、派手好きな父親の存命中に婿を取り、本家と分家を構えています。物語は内気な三女と奔放な四女の結婚相手選びを中心に展開しています。


 かっては、どんな相手と結婚するかは洋の東西を問わず一大問題でした。19世紀のイギリスでは J.オースティンが五人姉妹の結婚をめぐる『高慢と偏見』という小説を書いています。『細雪』にはどこか、大阪人の「高慢と偏見」という雰囲気があります。


 東京みたいな所に住みとうないわ、豊橋みたいな田舎はいやや、その人、月給いくらですやろ、花見はやっぱり京都やな、と大阪人の生活感情が活写されています。分家のある芦屋や神戸近辺の暮らしぶりも詳細に書かれています。一見優雅に、そして「いけず」に、したたかに生きる大阪人が浮かび上がります。


 何回か映画化されていますが、1983年の市川崑監督のものでは、岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子の四姉妹で、婿養子役は伊丹十三、石坂浩二です。丁寧に作られていますが、市川崑流の解釈が少し目につきます。


 いわば『細雪』は失われた時代の想い出のようなものです。大阪人のいけずな高慢と偏見が細雪のように消え去ろうとする過程を見詰めています。


「小説を読み解く」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2021-07-12



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