音楽のトラウマ [音楽]
昼下がり、午睡の BGMにチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」をかけてみました。チョン・キョンファのヴァイオリン、シャルル・デュトワ指揮、モントリオール交響楽団による1981年の演奏です。これは何年か前、チャイコフスキーに「ピアノ協奏曲第二番」というのがあり、聴いてみようと買った2枚組 CDに入っていたものです。
普通、チャイコフスキーのピアノ協奏曲といえば、テレビコマーシャルにも使われる「第一番」が知られていますが、小説家の宮城谷昌光さんは『クラシック千夜一曲』(集英社新書)で、中学生の時の、こんなエピソードを書いていました。
< あるとき音楽の授業で先生が/「これからピアノ協奏曲を二つかけます」/と、おっしゃって、レコードを聴かせてくれました。演奏がおわってから、/「どちらの曲がよかったですか。(後略)>
1曲目が良いとクラスの全員が挙手し、2曲目は宮城谷さん一人だけだったというのです。< だれもいいと感じなかった曲にひとり手をあげました。なんともいえない妙な空気がながれたのをいまでもはっきりとおぼえています。>
あとでの先生の説明では、1曲目はグリーグの「ピアノ協奏曲」、2曲目はチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第二番」だったのです。< 先生は、グリーグのピアノ協奏曲がいちおう名曲ということになっっているとおっしゃいました。> 生徒を傷つけまいとする気持ちが感じられたそうです。
しかし、自分は名曲が分からないのではないかとトラウマになったそうです。大学生になった頃、グリーグを聴いて、いい曲だ、なぜ中学生の時には分からなかったのかと、毎日のように聴いたそうです。しかしいつか、やっぱりこの曲はつまらないと思うようになったとのことです。
一方、チャイコフスキーの「第二番」は聴く気になれなかったそうですが、最近になって聴いてみると、<第一番と第二番ではあきらかに第二番のほうが品格が高い >と思ったそうです。
わたしはチャイコフスキーの「第二番」は聴いたことがなく、また高校生の時、ラジオから流れてきたグリーグの「ピアノ協奏曲」に魅せられた思い出があったので、チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第二番」というのに興味が湧き、先ほどの CDを取り寄せたのでした。
何回か聴いたのですが、「第二番」がそんなにいい曲だとは思えず、いつの間にか忘れていました。今回、たまたま同じ CDに入っている「ヴァイオリン協奏曲」を聴いて、演奏のすばらしさに眠気も無くなってしまいました。
そして翌日、何年かぶりに「第二番」を聴いてみたのですが・・・中学生のわたしも、この曲の方には、やはり手を挙げなかっただろうな・・と思いました。
そして、中学生の時の、「名曲が分からないのではないか」というトラウマが、宮城谷さんをクラッシック音楽の世界へ引きずり込んだのではないかと感じました。わたしもまた、いつか「第二番」がいいと思う時が来るのでしょうか?
#「宮城谷昌光の小説でない本」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2015-07-02
(チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第二番)