夏の蕪村 [読書]
本棚の奥から引っ張り出した『蕪村句集』*の「夏之部」を眺めていると、いろいろな句が目に留まります。与謝蕪村(1716-1783)という人の言葉への特異な感性が窺われます。
ほとゝぎす平安城を筋違(すぢかひ)に
すゞしさや都を竪(たて)にながれ川
京都の町を空から眺めた視点は新鮮で意外性があり、切り口のおもしろさに賭ける俳句の面目発揮です。
牡丹散りて打かさなりぬ二三片
ちりて後(のち)おもかげにたつ牡丹かな
牡丹の花の華麗な姿を散った後や残像として捉える卓越した手腕には感歎するほかありません。
涼しさや鐘(かね)をはなるゝかねの声
蓮の香や水をはなるゝ茎(くき)二寸
鐘の音の余韻や蓮の香が視覚的に表現されています。松尾芭蕉の「岩にしみいる蝉の声」の反響でしょうか。蕪村は生涯、芭蕉を意識していたようです。
端居(はしゐ)して妻子を避(さく)る暑さかな
夏河を越すうれしさよ手に草履(ざうり)
こんな生活感のあるユーモラスな句もあります。「夏之部」を散見しただけで目に留まる句が次々に現れます。変幻自在な視点で生活の中に詩を見つけています。
*清水孝之 校注『新潮日本古典集成 璵謝蕪村集』(新潮社)