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春の散歩 [雑感]

 すっかり春になったので、久しぶりに紀ノ川の堤を散歩しました。土手には黄色いタンポポが咲き、空ではさかんにヒバリが囀っています。川面はきらめき、河川敷では子供たちがボール遊びをしています。しばらく歩くと皮膚が焼け、ビタミンDが産生された気がします。


 今年の冬は寒さとオミクロン株で、引きこもっていました。川べりの道には同年代の同じような散歩者が行き交っていました。


  萠(も)ゆるものなべて幼く春の日の

      光のなかに紛(まぎ)るるもあり (吉植庄亮)


 本を読んだり、音楽を聴いたりしているだけでは、筋力が落ちてきます。わたしは元々、握力が 25Kgくらいしかありません。先日読んだ『「顔」の進化』*という本によれは、チンパンジーのオスは握力が 300Kgもあるそうです。人間の成人男性が 40Kg位なので < 力は「七人力」ともいわれる。実際に、京都大学教授であった、故・西田利貞氏は、野外調査で仲よくなったチンパンジーに肩をつかまれて、ポイッと放り投げられた。まるで、人間が猫を扱うように。オスのチンパンジーは体重が 55Kgほどしかないが、それにもかかわらず異常なほど力持ちに思われるのは、逆に私たちの筋力が低下して虚弱になったからと考えられる。 > と書いていました。


 なるほど、わたしたちは進化の過程で失ったものも多くあったのでしょう。そして、筋力の代わりに知力を手に入れたはずですが、世界の報道に接していると、なぜ暴力が絶えないのか不思議に思われます。しかし、基本的に「食う食われる」という動物が生きることに潜む深い闇の存在に気づき、慄然とします。


  鳴(なく)雲雀(ひばり)人の㒵(かほ)から日の暮るゝ (小林一茶)


 散歩した日は夜の眠りが深く、途中覚醒が少なくなります。失った筋力を取り戻し、知力を鍛え、日々を生き延びていきたいものです。


  *馬場悠男『「顔」の進化』(講談社ブルーバックス)



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