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「顔」のでき方 [読書]

良くできた科学読み物は事実を羅列するだけでなく、事実と事実の間に物語を見つけて語り、読者を驚かせ、新しい世界を見開かせてくれます。


 池澤夏樹が毎日新聞の 2021年「この3冊」に馬場悠男『「顔」の進化』(講談社ブルーバックス)を選んでいたのを見て、新書本が選ばれるのは珍しいと興味をもち読んでみました。


 著者は 1945年生まれの人類学者で、国立科学博物館に所属しています。「あなたの顔はどこからきたのか」と顔の進化を解き明かしていきます。例えば、ウマが馬顔で、ネコが丸顔でなければ生きていけない理由を生物学的に答えようとしています。


 そもそも、植物は光合成によって自分で栄養を作れますが、動物は作れないので、他の生物を暴力的に体内に取り込む必要があります。


  < 左右相称の動物は、一般に、決まった方向に比較的速く動く(速く動くために左右相称になったともいえる)。その方向が「前」になる。前端が、変化しつつある外界に最初に出会うのだ。食物に最初に近づくのも前端である。したがって、前端に口があり、そのほかの感覚器も集中することが望ましい。 > つまり、餌を探し捕らえるためには、あるいは餌にされないためには、感覚器の発達が欠かせない。それが顔のはじまりです。


 イヌは匂いをたどって獲物を追い詰め、見えない敵の存在を知る。イヌの鼻の先端には鼻鏡という、いつも濡れているゴムのような部分があります。< 鼻鏡の存在は、そこに吸着した匂い分子を、舌で嘗めて口に運び、口蓋にある特殊な嗅覚器官であるヤコブソン器官に入れて、匂いを分析するためのものである。 > イヌの嗅覚の鋭さの秘密です。


 ウマは長距離を走るので脚が長い。すぐに逃げられるよう安全に、立ったまま草を食べるには顔と頸の合計が前脚より長くなければならない。またウマは草を食べるので、磨りつぶす臼歯の数が多い(上下左右とも各6本)のでアゴが長くなる。ウマが馬顔になる所以だそうです。


 1万年前の縄文人は現代人に比べて歯が小さく、前歯の噛み合わせは、上下がぴったり合う「毛抜き型」だそうです。現代人は上の前歯が前にかぶさる「ハサミ型」です。縄文人の祖先が果物などの柔らかい食物の多い東南アジアに住んでいたためと考えられているそうです。


 約2800年前に北部九州などに渡来した弥生人の顔に最も似ているのは、シベリアのブリヤートやツングースなのだそうです。厳寒の地に住んでいたので、体熱が発散しにくい胴長短足の体型になったそうです。


 顔を調べることでいろんなことが見えて来ます。著者らは 1995年に「日本顔学会」を設立したそうです。2015年には発会 20周年を記念して『顔の百科事典』を出版しています。学会ではどんな発表があるのか、ちょっと覗いてみたい気もします。

#「日本人の来た道」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2020-11-07



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