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所により時により [雑感]

   千葉に住んでいる孫と話していると、ときおり怪訝な顔をされることがあります。「橋」、「箸」、「端」といった言葉のアクセントが気になるようです。


 わたしは関西人なので「川」と「皮」はきっちりと区別しますが、東京の人は同じ発音なのだそうです。


 金田一春彦『ことばの歳時記』(新潮文庫)を眺めているとこんな笑い話が載っていました。 <向島といえば、戦前までは東京で指折りの桜の名所であったが、ひとりの地方出身の客が、土手の茶店に腰をかけて名物の桜もちを食べていた。この客、桜もちの食べ方を知らぬとみえて、包んだ葉ごとムシャムシャほおばっている。茶店のおかみが見かねて「それは皮をむいて召し上がるものですが・・・」というと、客は「そうけえ」と言って、隅田川の方へ向きなおって食べはじめたという。> 関西では成り立たない笑い話です。


 むかし東京の姪が遊びに来たとき、「大阪の電車には『指をつめないで』と書いてある、指をつめるのはヤクザのすることで、『指をはさまないで』でしょう」と言います。そうとも言えるなと笑った記憶があります。


 先日、台湾で大きな列車事故がありました。清明節(4月5日ころ)で墓参に行く客が多かったそうです。日本では墓参りといえば、お彼岸で春分前後の数日ですが、中国やインドには春分にそんな風習はなく、中国では清明に野へ出て青草を踏み(踏青)、先祖の墓参りをすることになっているそうです(陳舜臣『唐詩新選』新潮社)。


 また、明治時代に仏教の原典を求めて鎖国中のチベットに潜入した河口慧海によれば、ネパールは一夫多妻であり、チベットは多夫一妻なんだそうです。兄弟や数人で嫁さんを共有し、主導権は嫁さんにあるそうです(河口慧海『チベット旅行記』講談社学術文庫)。


 所が違えばアクセント程度の違いから、風習や制度まで思わぬ違いに出会うようです。自分が当たり前と思い込んでいる事も通用するのは、場所も時代も限定的なのかも知れません。




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