SSブログ

忘れられた楽器 [音楽]

  アルペジオーネという忘れ去られた楽器がありました。ウィーンの楽器製作者が 1823年に考案した弦楽器で、ギターのように指板にフレットがあり、6弦でチェロ(4弦)のように弓で演奏しました。チェロより高音域がひきやすく、渋い甘美な音色だったそうですが、音量が小さかったようです。


 1824年、シューベルトは依頼されてこの楽器のためにソナタを作曲しました。「アルペジオーネ・ソナタ イ短調」です。しかしアルペジオーネという楽器は数年で忘れられてしまいました。現在ではチェロで演奏されることが多く、まれにビオラやフルートが用いられるようです。


 わたしはもう 30年近く前、テレビの番組で確か石井宏という人が、ミッシャ・マイスキー(チェロ)とマルタ・アルゲリッチ(ピアノ)によるこの曲の演奏を勧めていたのを聞いて、早速CDを買い求め、以来愛聴しています。


 シューベルトらしい哀愁を帯びた歌心がチェロの深い響きで流れ、またハンガリー風のリズムが弾みます。歌曲集『冬の旅』のように行き暮れた寂しいシューベルトを聴くのは堪りませんが、生気のある音楽は日常のこころの糧になります。いろいろな演奏者で聴いてきましたが、マイスキーとアルゲリッチの組み合わせは情感が深くて繊細だと感じています。


 小説家の宮城谷昌光が「私が理想とする演奏に、マイスキーとアルゲリッチでもとどいていないが、ほかの盤をかなり聴いたところ、すべてこの演奏より下である。いまはこの盤しかないといっておく。こういういいかたを不遜だとはおもわない。演奏家はこの曲への愛情が足りないのである。」と書いているのを読むと「そこまで言わなくても・・・」と微苦笑します。(宮城谷昌光『クラシック 私だけの名曲1001曲』新潮社)


 音楽の感想を聞いて、「あぁ この人はわたしと同じように感じているんだ」とか、「そんな感じ方もあるのか」と思い返してみたり、音楽をとおして気持ちが通いあえるのは、心楽しいひとときです。

 





nice!(23)  コメント(4) 
共通テーマ:日記・雑感