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マスクの茂吉 [読書]

 山本健吉『句歌歳時記 春』(新潮社)を眺めていると、斎藤茂吉のこんな歌が目に止まりました。


  冴えかへるこのゆふまぐれ白髭(しろひげ)に

        マスクをかけてわれ一人ゆく 『霜』


  うづくまるごとく籠りて生ける世の

        はかなきものを片附けて居り 『白桃』


  よる深くふと握飯食ひたくなり

        握めし食ひぬ寒がりにつつ 『赤光』


  こうして歌を並べてみると、なんともいえない人間の味が、巧まぬユーモアと伴に滲み出てきます。茂吉といえば・・・


  のど赤き玄鳥(つばくらめ)ふたつ屋梁(はり)にゐて

        垂乳根の母は死にたまふなり

 

  最上川逆白波(さかしらなみ)のたつまでに

        ふぶくゆふべとなりにけるかも


といった絶唱が思い浮かびますが、彼は鰻の蒲焼が大好物だったことも知られています。息子の茂太の縁談がまとまったとき、両家の顔合わせの席で、緊張した婚約者が食べ残したウナギを茂吉は「それを私にちょうだい」と言って食べてしまったそうです。(嵐山光三郎『文人悪食』マガジンハウス)


  最上川に住みし鰻もくはんとぞ

        われかすかにも生きてながらふ (昭和20年)






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