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ホタルのころ [雑感]

 もう長いこと、部屋の中にホタルが迷いこんでくることはありません。ホタルの見られる場所に出かけると、大量のホタルが一斉に明滅していますが、こどものころには、電灯を消した家のなかをふらぁと一匹、飛んでることがありました。


   思ひ出は首すぢの赤い螢の

   午後(ひるすぎ)のおぼつかない触覚(てざわり)のやうに、

   ふうわりと青みを帯びた

   光るとも見えぬ光?

            (北原白秋)


 中国の『礼記』には草が腐って螢となると記されているそうです。本邦の和泉式部はまた、螢火を自らの魂と見た。(久保田淳『古典歳時記 柳は緑 花は紅』)


   てうつしにひかりつめたきほたるかな (飯田蛇笏)


 夏の夜に防波堤にいくと、海の中に海ホタルがたくさん漂っていることがあります。掬いとってみると、手のひらが青くひかります。


  <夏はよる。月のころはさらなり、闇もなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただひとつふたつなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。>(枕草子)


 これから寝苦しい季節になりますが、ホタルが迷いこんできたころを思い出しながら、夜の雨を聞いているのもいいかもしれません。


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