ベストセラーで見る時代 [読書]
紀伊國屋書店のオンラインに好みの著者名を登録しておくと、新刊が出ると知らせてくれます。以前はよく本屋さんに行っていたので、自分で好みの著者の本をチェックしていたのですが、最近は書店で時間をつぶす機会が減ったので、メールでの通知は助かります。
先日は、関川夏央『砂のように眠る 私説昭和史1』(中公文庫)というのを知らせてくれました。関川夏央は昭和24年新潟県生まれの文筆家で、わたしは1990年代から、彼の正岡子規、二葉亭四迷、山田風太郎などについての評論や昭和戦後期に関する論考などを面白く読んできました。今回のは1993年に新潮社から出版した本の文庫版です。
内容は戦後に流行った本・・・無着成恭『山びこ学校』、石坂洋次郎の小説、安本未子『にあんちゃん』、小田実『何でも見てやろう』、高野悦子『二十歳の原点』、田中角栄『私の履歴書』についての論述と、その間に、それらの本が出た頃の自分を振り返るような短篇小説が挟まれているという変わった構成になっています。
ここに挙げられている”流行った本”をわたしが一冊も読んでいないのには、ちょっと驚きました。ベストセラーは手に取りにくいというわたしの習慣のせいなのでしょう。
山形県で中学生に生活綴り方を指導し『山びこ学校』として出版(1951年)した無着成恭は、村の貧乏を世間にさらしたと批判され、村を追われたそうです。後に彼はラジオの「こども電話相談」でも知られるようになり、わたしも車のラジオで耳にした覚えがあります。
小学生の時に映画になった『にあんちゃん』を隣町の映画館で観たのを憶えています。九州の炭鉱町の暮らしなど、子供なりに印象が強かったのでしょう。監督 今村昌平、助監督 浦山桐郎で、殿山泰司、小沢昭一、西村晃、北林谷栄らが出演しているので、人間味に溢れた画面だったのでしょう。大人になってからテレビでも観た憶えがあります。長兄が日記を出版(1958年)してくれたお蔭で、”にあんちゃん(次兄)”は慶応へ、未子さんは早稲田へ進学でき、現在もご健在だそうです。
高校生時代に友人が『何でも見てやろう』(1961年)が面白いと言っていた表情が脳裏に浮かびます。1日1ドルでの世界旅行記です。当時、毎日顔を合わせていた仲でしたが、卒業後は付き合いが無くなり、彼がどんな大学時代を過ごしたのかは分かりません。「OH ! モーレツ」の時代に保険会社に就職し、若くして脳卒中で倒れ、数年前に亡くなったと知りました。わたしは雑誌などで小田実の文章は読んだのでしょうが、結局、本を買った記憶はありません。
家内は結婚してから『二十歳の原点』(1971年)を読んだそうです。これは1969年に自死した京都の女子学生の日記を父親が出版したものです。時を追って彼女が思考の罠に絡め取られていく様子が感じられ、誰か大人が傍に居てやれなかったのかと残念に思われます。出版した父親の悔しさが推察されます。家内は知人に同様の人がいて、この本を読んで何となくその人のことが理解できたような気がしたそうです。
後の方に挟まれた短編小説は、関川夏央の二十歳のスケッチなのでしょう。誰にとっても二十歳を生き延びるのは危険な峠道なのでしょう。あとがきで著者もやはり、これらのノンフィクションは出版時には読まなかったと書いていました。後に自分が育った戦後という時代を振り返る資料として読み、それぞれに興味深かったようです。
#「わたしの昭和30年代」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2024-01-13
おはようございます^^
二あんちゃん、って映画を見た記憶が。共産党の教員に勧められて読みましたが「つまらない」と思った記憶。
「二十歳の原点」ちょっと読んでみたい気がします。
by mm (2024-12-18 06:40)
私も「にあんちゃん」は映画で見た気がします。
北林谷栄さん・・・いい女優さんでしたよね。
無着成恭さんは印象深い活動をされていたと思って
いましたが村八分のような形で村を追い出されていた
そんな時代だったということでしょうか?
by yoko-minato (2024-12-18 09:15)
mmさん、それぞれの本に、その頃の雰囲気がありますね。
いわばその時代の化石です。やはり「二十歳の原点」は1969年
の産物なのでしょう。
by 爛漫亭 (2024-12-18 13:27)
yoko-minatoさん、映画「にあんちゃん」は当時、
学校から推薦されて多くの子供が映画館に行ったの
かも知れません。当時の脇役の俳優さんは個性的で
人間的な深みが感じられましたね。
無着さんの生活綴り方も村社会では異端視されたで
しょうね。現代の内部告発みたいなものかも知れま
せん。
by 爛漫亭 (2024-12-18 13:44)
この中で読んだのは「二十歳の原点」だけですね、多分。
当時の若者たちのバイブルのようにとらえられていた気がします。
一種、時代を象徴する書籍でした。
無着成恭さんも、本よりラジオの方が印象強いですね。
職場にラジオが流れていて、2年ほど聞きました。
確かにベストセラーと言うのは、とっつきにくいですね。
それで熱が冷めてから読むようにしていましたが
そのまま読まずに終わったり
読んでも存外面白くなくて、
やはり旬の時に読まないといけないなぁと
後悔したものです。
by そらへい (2024-12-18 20:37)
そらへいさん、高校の頃は文庫本しか買わなかったので、
ここに出ている本は関係が無かったのかも知れません。単行
本を買うようになったのは大学になってからでした。当時、
文庫は古典的なものが多かったですね。「二十歳の原点」に
なってやっと同時代の本になったのかも。
by 爛漫亭 (2024-12-18 22:42)
どういうわけか「にあんちゃん」を除いてみんな読んでいます。ベストセラーというのは読んでないつもりでいたのですが…。関川夏央のも韓国・北朝鮮物を含めてあらかた。山田風太郎さんのは「くのいち」物以外「明治」物は特に好きです。テレビは置かないという主義なので時間はけっこうあります。ラジオ・新聞も近頃は面白いものは少なくなってきて、読書に飽きるとパソコンでゲームなどしています。時間を無駄に使ってなどという罪悪感は起きませんね。年のせいでしょうか。
by chonki (2024-12-19 13:46)
chonkiさん、相変わらず乱読、守備範囲が広いですね。
関川夏央を読んでいたとは知りませんでした。山田風太郎
の「臨終図巻」は読み進むにつれて段々、気分が悪くなり
ますね。若い時でないと読めないかも。
お互い気楽に暮らしましょう。
by 爛漫亭 (2024-12-19 15:38)
人の死というものは人並み以上に経験してきましたが、自分の死というものについて考えてみたのは、がんが見つかった今年が初めてです。太陽を凝視できないように、自分の死についてはまともには考えることができないということがわかりました。終活などというのは問題外。残された人が好きにすればよいと考えています。「臨終図巻」は枕頭にあって面白く再読・三読しています。我ながら人に好かれることがない人間だなと感じます。
by chonki (2024-12-21 14:51)
chonkiさん、今まで生きて来たように生きていく他ないわけで、
人類誕生以来、誰も死にそこなった人は無いので、気楽に暮らせば
いいと思っています。わたしは少し自惚れて、半分の人に好かれ、
半分の人に嫌われているくらいと楽観しています。
by 爛漫亭 (2024-12-21 18:54)
「ホメラレモセズ、クニモサレズ」ということであれば理想的ではないかと考えることにします。
by chonki (2024-12-22 09:03)
chonkiさん、ミンナニデクノボートヨバレですが、
「木偶」は持っていますか? 私は失くしてしまいました。
古い話ですね。
by 爛漫亭 (2024-12-22 15:57)
あるはずだと探してみました。本箱の隅にちゃんと見つけました。
6冊も残っています。よければまたの機会にでも差し上げます。
by chonki (2024-12-23 19:55)