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西行の身と心 [読書]


  風になびく冨士の煙の空に消えて

       ゆくへもしらぬわが思ひかな (西行)


 九百年前の平安末期から鎌倉時代を生きた西行には愛誦される歌や伝説、逸話が多く、それだけ人々を惹きつける魅力があるようです。先月の毎日新聞の書評欄に寺澤行忠『西行 歌と旅と人生(新潮選書)という本が紹介されていました。著者は長年に亘って西行の歌の写本間での異同・正誤を研究してきた学者だそうです。



 一読、文章は平易で、学者にありがちな過度なこだわりがなく、評論家的な強すぎる思い入れもなく、淡々と西行の歌、旅、人生について過不足なく記述されていました。長年付き合ってきた人物を紹介するような雰囲気です。



 西行(俗名・佐藤義清)は藤原北家につながる家系で紀ノ川右岸に知行地を持ち、奥州・藤原氏とは縁続きで、生涯に2度、奥州を訪れています。15歳頃から徳大寺家に仕え、その後、鳥羽院の北面武士となり、そこでは同い年の平清盛も北面武士だったので、顔見知りだっただろうということです。



 そして、23歳で出家します。原因は定かではありませんが、待賢門院璋子へともいわれる叶わぬ恋などが挙げられています。京都近郊で暮らしたあと、26歳の時なぜか奥州に旅しています。



  吉野山梢(こずゑの花を見し日より

     心は身にもそはずなりにき



 西行が桜を好み吉野に庵をむすんだことはよく知られていますが、時期は特定できませんが大峰修験にも2度出かけています。過酷な修行であったようですが、西行は屈強な人だったようです。。32歳からは高野山を拠点とし、30年ほど暮らしています。この間に各地を訪れているようですが、特に、讃岐へ行き、配流され亡くなった崇徳院(待賢門院璋子の息)の陵に参り、空海の遺跡を巡っているのが知られています。



 源平合戦の時代を潜り抜け、晩年の6年は伊勢で暮らしていますが、69歳の時、平氏に焼かれた東大寺の再建のために、2度目の奥州への旅を行っています。平泉・藤原氏に砂金などの寄進を依頼するためでした。途次、鎌倉で源頼朝に出合っています。高齢で伊勢から平泉へよく往復できたものです。



  年たけてまた越ゆべしと思いきや

    命なりけり小夜の中山



 奥州藤原氏が頼朝によって滅ぼされた翌年、西行は73歳で、願ったように桜の時に河内の弘川寺で亡くなっています。壮健な身体に感受性豊かな心が宿っていたのでしょう。伝説化されるに相応しい一生だったように思われます。



  心なき身にもあはれは知られけり

    鴫(しぎ)立つ沢の秋の夕暮れ




西行:歌と旅と人生 (新潮選書)

西行:歌と旅と人生 (新潮選書)

  • 作者: 寺澤 行忠
  • 出版社: 新潮社
  • 発売日: 2024/01/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 

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そらへい

こちらのブログに来ると、若い頃に出会った名前によく遭遇します。
しかし、西行本人のことは何も知らず、
ただいろいろな文献で西行が出てきた記憶があるばかりです。
平安末期から鎌倉時代の人だったと言うことさえ、
忘れていたか知らなかったか
「願わくは 花の下にて 春死なん そのきさらぎの もち月のころ」
高校時代の教科書に出てきたような曖昧な記憶です。
by そらへい (2024-05-29 17:54) 

爛漫亭

 そらへいさん、西行は古い人ですね。芭蕉が奥の細道に
出かけたのは、西行500年遠忌の意味もあったようです。
影響力の大きい人ですね。
by 爛漫亭 (2024-05-29 19:26) 

tai-yama

奥州・藤原氏とは縁続きで「佐藤」と言う名前だと
義経の腹心佐藤兄弟と縁があったのかもしれませんね。
義経と共にしていた可能性もあったのかも・・・・
by tai-yama (2024-05-29 22:59) 

爛漫亭

 tai-yamaさん、何か関係があるかもしれませんね。
義経が吉野に逃れた時は、西行は高野山に居たので
しょうし・・・ただ西行は清盛とも知り合いで、平家
よりだったという記載もありました。
by 爛漫亭 (2024-05-30 09:32) 

yoko-minato

西行という名前は知っていますが
改めてそういう人だったのかと
淡々と歌を詠まれていたのですね。
当時のことを想いながら改めて歴史を
学ぶのもいいのかも知れないと思いました。

by yoko-minato (2024-06-01 09:04) 

爛漫亭

 yoko-minatoさん、今回の本は西行のことが分かり易く
書かれていて良かったです。西行は平安時代末には珍しく、
自分の思いをストレートに詠めた稀有な人だったようです。
by 爛漫亭 (2024-06-01 09:46) 

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