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家族のかたち [読書]

 年が変わり、昨年末の新聞の書評欄で興味を惹かれた、エマニュエル・トッド『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(文藝春秋)を読み始めました。E.トッドは 1951年生まれのフランスの人口・家族人類学者です。上下2巻で 700頁の本なので、まだ4分の1程しか読めていませんが、翻訳調の文章で、考察の対象が多岐に渡り、理解するのに悪戦苦闘しています。



 まず序論として、家族のかたちの持つ意味に気づいたきっかけを、< 一九七〇年代末に確定していた共産主義体制の分布図が、ロシア、中国、ベトナム、ユーゴスラヴィア、アルバニアなどに存在する特定の農村家族システムの分布図に合致することを確認したのだった。その家族システムは、一人の父親と既婚の複数の息子を結びつけるシステムで、親子関係においては権威主義的、兄弟同士の関係においては平等主義的である。権威と平等性はまさに共産主義イデオロギーの核なので、家族とイデオロギーの合致を説明するのは難しくなかった。> と語っています。



 そして、家族システムは世界各地で多様ですが、今まで社会科学の標準モデルとされていた < 複合的な家族から一組の夫婦への推移ーーーが事実としてばかげていることに気づいた。実は、原初の家族が核家族だったのである。(中略)ホモ・サピエンスの原始状態における人類学的形態だったのである。これに対して、夫婦を父系の親子関係の中に閉じ込める形態、すなわちユーラシア大陸の大部分を占有した共同体家族の形態は、歴史の産物にほかならない。> と考えの道筋を示しています。



 つまり、古い形態が中央から離れた辺縁に残るように、ユーラシアの外れのイギリスなどに核家族という古い形態が残存した。< ホモ・サピエンスの出現以来、家族は単純型から複合型へ推移したのであって、> その逆ではない。



 イギリスやパリ盆地では狩猟採集民に近い核家族が見られるのに対し、文明の発生地である中東では最も複合的な、最も「進化した」内婚制共同体家族が見られ、< 父親と既婚の息子たちを結びつけ、次にその息子たちの子供たちが結婚するするのを推奨するわけだが、このシステムは五〇〇〇年もの推移の帰結なのである。> と書かれています。



 歴史の中で、イギリスでは核家族であったことによって、農民層から根なし草的労働者が得られ、産業革命につながった。ドイツと日本ではかって長子相続であったため、次男、三男が社会に放り出され、社会を活性化させる面があった。



 家族形態の現代的な現れとして、核家族の自由主義によって、イギリスはEUを離脱し、米国はトランプを選んだ。直系家族であったドイツ、日本、韓国では出生率が危機的に低下している。



 序論のまとめとして、< 基本的な歴史のシークエンスは、核家族(父系制レベル0)から出発して直系家族(父系制レベル1)へ移り、次に直系家族から外婚制共同体家族(父系制レベル2)へ移り、そしてついには内婚制共同体家族(父系制レベル3)に至る > と記しています。



 次からは各論になります。気長に少しずつ読み進めようと思います。経済のグローバリゼーションは 50年の歴史ですが、家族の歴史は 5000年の積み重ねがあり、人々の無意識に影響を及ぼしているという気の長い話ですから。


#「また 家族のかたち」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2023-01-31

#「日本人の来た道」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2020-11-07



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そらへい

いかにも難しそうですね。
このブログで紹介して書き出そうとすると
読むだけで無くある程度理解しないといけないので
ただ読み流すより、理解が深まるメリットがありますね。
私はもう脳体力がないのか、
ストーリーや中身の面白さで引っ張ってもらわないと
読書が進みません(笑)
by そらへい (2023-01-10 17:50) 

爛漫亭

 そらへいさん、読書の楽しみのひとつは、
目からウロコの体験ですね。どこかにそんな
本がないかとアンテナを張っているのが身に
ついています。蟻地獄のような怠惰な生活です。
by 爛漫亭 (2023-01-10 20:27) 

chonki

難しい本を努力して読むということはもうしないようにしているつもりですが、いま「力と交換様式」という本が手元にあります。難しくて理解できないというのではなく内容にもう一つ共感できない、ふーんそうかなぁという読中感です。これも一種のわかっていないということでしょうが・・・。養老孟司さんや山本夏彦さんなどのはそうだそうだと思いながら読みますが、目からうろこは落ちません。
by chonki (2023-01-11 10:19) 

爛漫亭

 またchonkiさんは難しそうな本を読んでますね。哲学といえば、昨年、8月に教祖先生が 99歳で他界されたそうです。わたしなどが教わったころは、40代だったのですね。今から思っても、目からウロコを剥ぎ取られる感じでした。
by 爛漫亭 (2023-01-11 11:56) 

chonki

そうか。教祖はなくなったのか。伝説の哲学教師でしたね。私には入学試験の最中に何か質問はあるかと闖入してきた変なおっさんとしての印象が強い。またD上君などに連れられてすき焼きをごちそうになりに押し掛けた思い出もなつかしい。不肖の学生でしたなぁ。

by chonki (2023-01-11 22:38) 

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