戦後という時代 [読書]
大阪・淀川の右岸に十三(じゅうそう)という歓楽街があります。阪急電車の十三駅の周辺です。宮本輝の小説『骸骨ビルの庭』(講談社文庫)は十三を舞台にしています。
地元で骸骨ビルと呼ばれていた「杉山ビルヂング」に戦後、戦災孤児や親に捨てられた棄迷児たちが住み着き、戦地から帰国したビルの相続人・阿部轍正によって育てられた経緯から物語は展開していきます。
阿部轍正と友人で結核療養をしていた茂木泰造は骸骨ビルの庭で野菜作りをしながら子供たちを育てます。それぞれの孤児たちの物語が、彼らの立ち退きを求めるために管理人として送り込まれた八木沢省三郎の手記として書き記されます。
平成6年2月20日が手記の始まりなので、住み着いた孤児たちも四、五十代になっています。それぞれの暮らしが個性的に描かれ、管理人の八木沢も徐々に彼らの結びつきに引き込まれていきます。単身赴任の八木沢は、かって孤児たちがビルの庭でしたように野菜作りを始めます。
宮本輝を読んでみようと思ったのは、以前、彼の「力道山の弟」という短篇小説が面白かったからです。映画『泥の河』(監督 小栗康平)も彼の小説が原作になっていました。いずれも戦後という時代を背景としています。宮本輝は1947年生まれです。
宮本輝はなぜ戦後という時代を書き続けるのでしょう? わたしも同世代として、あの猥雑で、子供たちがあふれ、貧しく、それでいて未来に希望を託し、生き延びた時期が生き方の基準として身に染みついているのを自覚します。
子供の頃、思いもしなかった21世紀がやってきて、人は減り、空き家だらけとなり、未来に希望はあるのかと訝しく思います。いや、それは戦後からの回復期を生きた人間の思考の癖にすぎず、現実は過密が解消され、穏やかに長生きができる社会が到来しつつあるとすべきでしょうか?
#「こころに残る短篇小説」https://otomoji-14.blog.ss-blog.jp/2019-06-24
宮本輝さん、しみじみとさせますね。
乱読の中で何度か出会ったので何を読んだか忘れてしまいましたが
印象はしっとり泣かせると言う感じでした。
戦後生まれの作家だったのですね。
もう少し歳が下がると、村上春樹とか村上龍になるのに
この数年の違いはなんなのでしょう。
by そらへい (2022-07-13 20:56)
そらへいさん、宮本輝は大阪に縁があるので
カッコつけない雰囲気がありますね。上方小説
といった感じですね。
by 爛漫亭 (2022-07-14 08:29)