紀ノ川の流れ [読書]
ここ数年来、様子をみていた病気が、そろそろ治療したほうがいいだろうということになって、正月休み明けから入院しています。今日は連休で外泊になりました。検査も終わり、来週から治療です。
この間から朗読を聞いていた有吉佐和子『紀ノ川』(新潮文庫)が読了になりました。高校生のころ(1964年)連続テレビ・ドラマで観た記憶があります。南田洋子が主演でした。和歌山の人はこんな喋り方をするのかと、方言が印象的でした。十年ほどまえ、古い映画化(1966年)されたものもDVDに録画して観ていました。こちらは主人公を司葉子が演じていました。
原作の小説はなんとなく手にする機会がありませんでしたが、ふと読んでみる気になりました。東から西に流れる紀ノ川の上流、九度山の慈尊院の石段を上がる祖母(豊乃)と孫娘(花)の場面から始まり、花が船に乗って下流の六十谷(むそた)の真谷家に嫁いでいくながれは流麗で、著者三十代の作とは信じられないほどです。
島崎藤村『夜明け前』が幕末から明治にかけての男系の家の物語であるのに対し、『紀ノ川』は明治から昭和戦後にわたる女系の家の物語です。豊乃から花、そして文緒から華子へと連綿と続く血脈が綴られます。
結末近く、没落のなかで花の言葉は痛烈です。
<花は大きな入歯を口からはみ出すようにして、皺の中に笑いを展げ、/「そやよって、農地解放のときは私は嬉しかったんよし」/と云うのだった。/「これで真谷の家はどないしても建て直しがきかんようになったのや、御先祖さまに申訳する必要はないのや、そう思うたら、これまで一生懸命やったことが無駄になったというよりは、心が隅々まで晴れ晴れして、文緒、文緒て、大声あげて呼びたかった・・・・・。>
慈尊院へは何度か出かけたことがあります。安産、授乳、育児のために捧げられた白い布でできた乳形が並んでいます。境内から高野山まで続く町石道が始まっています。お寺の前には紀ノ川が流れています。わが家を考えてみても、日本社会はやはり女系なんだろうなと納得させられます。
和歌山の方言は、教えて頂いた金田一春彦『ことばの歳時記』でも
取り上げられていたと思うのですが、見付けられませんでした(..)
by middrinn (2020-01-12 16:36)
「そうやのし」と言葉にも熨斗をつけると
いわれますが、また場所によって敬語がまったく
ないのが特徴というところがあったり、心臓を
シンドーと発音したり、体をカダラと倒置したり
いろんな地区があります。
by 爛漫亭 (2020-01-12 19:57)