想いはめぐる [読書]
二十年ほどまえ、信州・追分でお茶を飲みに入った店の前に、「油屋」という建物がありました。「あっ、ここが油屋か・・・」と、しみじみと眺めた憶えがあります。火事で焼け、往時とは変わっているはずとは思いましたが・・・。
加藤周一『羊の歌ーわが回想』(岩波新書)を読んでいると、旧制中学生のころとして、こんな場面が出てきました。
<ある日の午後、中仙道を沓掛の方へ向って散歩に出たとき、同じ方角へ向う長身痩躯の青年があった。どちらからともなく話しかけ、ならんで歩いているうちに、「ぼく立原です」とその青年がいったのである。立原は歩きながら、すすきの穂をひき抜いて、それを手にもてあそんでいた。(中略)私はそのとき立原道造の書いた詩を読んではいなかったがー従ってまだその魅力にとらわれてもいなかったが、彼の考えの明晰さに感心し、その人柄には、飾らない魅力があると思った。秋になって東京に帰った私は、油屋が焼けたということを聞いた。その火事のときに二階にひとりだけ住んでいた立原は、焼け死にそうになり、窓の格子を鋸で切り開いた消防手にやっと助け出されたという。>
大学生のとき、数巻の『立原道造全集』をアパートの部屋に置いていたF君という同級生がいました。「ふぅーん」と眺めた記憶があります。卒後三十年ほどして、専門関係の雑誌や、フォーク歌手・高田渡との関わりで彼の名前を見かけたことがありました。
そういえば『千と千尋の神隠し』の湯屋の名前も「油屋」でした。宮崎駿も信州・追分に何か思いがあったのでしょうか。島崎藤村『夜明け前』にも、主人公・半蔵が中仙道・追分宿に泊まる場面が出てきます。追分は中仙道と北国街道の分岐点だそうです。 いろんなことに想いが回ります。
「油屋」からいろんな事が繋がって
不思議で面白いですね。
by そらへい (2019-01-21 09:08)
いろんなことが思い出されて
記憶は万華鏡のようですね。
by 爛漫亭 (2019-01-22 13:58)