よみがえる詩句 [読書]
19歳ごろ、南海電車に乗って、吊り革を持って車外を眺めていると
腕にたるんだ私の怠惰
今日も日が照る 空は青いよ
という中原中也の詩句が頭にうかびました。 丁度その頃、角川書店から『中原中也全集』が出ていたので、すみずみまで読みました。その後は遠ざかりました。
最近、本屋さんに佐々木幹郎『中原中也 沈黙の音楽』(岩波新書)という本が並んでいました。そばを通るたびにちょっと中身をながめたりしていたのですが、まぁいいかと戻していました。そのうちに見えなくなりました。
それが先日、また棚に立てられていました。まぁいいかと買ってきました。五十年まえの記憶が蘇ってきます。
「一つのメルヘン」
秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があって、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。
陽といっても、まるで硅石か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでゐてくっきりとした
影を落としてゐるのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかった川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました......
あの頃私が読んでいたのは中原中也でも小林秀雄でもなく、坂口安吾でした。そして今小説はほとんど読まず、人生の意味とか値打ちだとかいうことを考えることもなくなりました。その代り人の一生の嵩(かさ)とかvolumeとかいうものが頭に浮かんで、まあこんなものかという思いになったりしています。当時から早く年をとりたいという考えがあって、(そんなことを話していたような記憶もあります)結婚して子供も孫もでき仕事の責任も果たした時が本当に自由で理想の状態ではないかと思っていたようです。
客観的に見れば今現在がまさにそうではないかといえます。
主観的にいっても、うむ悪くはないなという気分ではあります。
寒くなってきます。お身体に気をつけてください。
by chonki (2017-12-01 13:25)
来年は古稀ですが、いろんな思いを飼いならしながら、まぁこんなものかと納得しています。いまごろこんな本を読んだりしたのは、自分が過ごした混沌とした時間を、ふと思い出したりしたせいかも知れません。
ご自愛のほど。
by 爛漫亭 (2017-12-03 21:06)